フランとレディブルー探索

　フランが魔術学院での教官役を引き受けた数日後。今日は町の探検に繰り出していた。

「あっちいく！」
「オン！」

　目的地があるわけでもない、気ままな町歩きだ。

「美味しそうな匂い」
「オン」
「あっちからお花の匂い」
「オンオン！」
「なんか、カッコ良さそうな匂い！」
「オ、オン？」

　匂いと好奇心に誘われるがまま歩き続けた結果、フランは完全に迷っていた。
　元々、巨大な蜘蛛巣のような、複雑な作りのレディブルーである。何も考えずに探検していれば、自分がどこにいるのか分からなくなってしまうのも当然であった。　

『ここって、さっきも通らなかったか？』
「？　ほんと？」
「オン」
「じゃあ、こっち！」
「オンオン！」
『また、狭い道を……』

　猫の習性なのか、フランは狭い道を通りたがるんだよね。小型犬サイズのウルシは嬉しそうにその後ろを着いていく。そうして探検を続けると、少し広めの通りに出た。

「屋台たくさん！」
「オン！」
『ここの通りは初めて来たな』

　町のやや外れであるらしく、観光客よりは地元民向けの屋台が集まっているようだ。
　テーブルや椅子が、通りにはみ出るように並べられている。結構雑多な感じなんだが、西洋風の街並みのせいでオシャレに見えるね。フランとウルシはまるで引き寄せられるかのように、フラフラと屋台に近づいていく。いや、実際、匂いに引き寄せられているんだろう。

「らっしゃい！」
「なに売ってる？」
「スープだよ！　一杯どうだい？」
「ん。二つ頂戴」
「あいよ！」

　屋台で販売しているのは、キノコがたっぷりと入った琥珀色のスープだった。味付けは何だろうな？　塩だけじゃなさそうだが。

「いただきます」
「オン！」

　フランたちはいそいそとテーブルに着くと、軽く手を合わせてスープに口を付ける。ああ。ウルシの分はちゃんと深皿に移し替えているのだ。

「む！」
『どうだ？　美味しいか？』
「ん！　ピリピリしてて美味しい」
『ピリピリ？』

　胡椒でも入っているのかと思ったが、詳しく鑑定してみると山椒であった。食べ慣れないスパイスであるため、フランも驚いたんだろう。ただ、がっついていることから、山椒も気に入ったらしい。元々辛いもの好きなウルシも、尻尾をバッサバサ振って大喜びだ。その後、通りを歩きながら買い食いを続けるんだが、どの料理にも山椒が使われているらしい。しかも、どれもかなり美味しいようだ。

「もぐもぐ！」
「オムオム！」

　既に五軒目なのに、驚くほどがっついているのだ。

「もっと？」
「オン！」

　ウルシはもっと刺激が欲しいらしく、フランに頼んで卓上に置かれた山椒をかけてもらっている。
　いやいや、かけすぎだから！　こんもりしちゃってるぞ！　お店の人の眼も厳しいし！

「ガフガフ！　オンオン！」

　ウルシ的には、かけ過ぎくらいがちょうどいいらしい。フランが粉っぽ過ぎて咽ている横で、ひたすら山椒大盛りステーキを食べ続けている。もう料理を食べているか、山椒を食べているか分からんな。卓上の山椒を食べ尽くしてしまったので、ちょっと多めに代金を置いてきた。

「次はあそこ！」
『ま、まだ食うの？』

　どの屋台でも山椒メインの味付けっぽいのに、飽きないの？　まあ、飽きないんだろうな。ウルシだけじゃなくて、フランもずっと同じペースで食い続けてるもん。すでに適量を見極めたらしく、もう咽たりもしていない。
（ピリピリが違う）

『違う？』
（ん。ピリピリ度も、匂いもちょっと違ってる）

　どうやら、山椒の種類が違っているらしい。気になったので屋台の人に聞いてもらうと、この辺では何種類もの山椒が自生しているそうだ。そのため、山椒が安く手に入るという。
　教えてもらった雑貨屋に行くと、確かに一〇種類以上の山椒が置かれている。中には、見たこともない巨大なものや、真っ青なやつなんかもあった。こっちの世界の動植物って、神様が地球から持ち込んだやつらしいけど、こっちの世界オリジナルの種類も結構あるんだろうな。紫のやつとか絶対毒がありそうな見た目だが、魔力が豊富で非常に美味しいらしい。
　料理の幅が広がるし、たくさん買っておこう。

「オンオンオン！」
「ウルシが、買った山椒で料理してほしいって。ゲキカラで」
「オン！」
『お前、本当に山椒が気に入ったんだな……。そうだな、麻婆豆腐なんかいいかもな！　バルボラで手に入れたスパイスと合わせたら、メッチャ美味いのが作れそうだ！』
「オ、オンオン！」
「早く帰ろうって」
『いやいや、まだ探検の途中だろ？　いいのか？』
「ん。私もまーぼーどーふ食べたい」

　ああ、フランも結構山椒を気に入ったのね。まあ、フランには甘口のを作ってやるか。

『よし！　それじゃあ、宿に戻ろう！』
「ん！」
「オン！」

　まあ、迷子中だから、すぐには帰れんと思うけどね。いや、この二人だったら食欲パワーで直感が強化されて、あっという間に帰り道を見つけてしまいそうだけど。

「ウルシ！　頑張って宿に帰る。まーぼーどうーふのため！」
「オン！」

　フランたちはまるで戦場に向かう兵士のように、真剣な顔で歩き出すのだった。がんばれー。